これはオバマ大統領の今回の任期中にはアメリカ経済が回復しきれないということを示しています。
もっとも、ポール・クルーグマンが指摘しているように、「今までのアメリカ経済が金融バブルであり、経済回復の根本には消費者・企業・政府の借金依存体質の改善が不可欠」という側面もあります。つまり需給ギャップの基準となる潜在成長率そのものがゲタを履かされているものだということも忘れてはなりません。
以下、レポートの引用。
需給ギャップが語る「失われる時間」
in 日経ビジネスオンライン
米国では株価が底値から反発してダウ工業株30種平均は一時8000ドル台を回復し、また経済指標も、好転の兆しが見えている。だが、これで景気後退のすべてが片づいたと見るのはまだまだ早い。実感ある経済成長にまで回復するには、まだ気の遠くなる時間がかかるだろう。
そう考える最も大きな理由は、現在の米国が抱える巨大な需給ギャップである。需給ギャップとはその国が本来持っている産出力(潜在GDP=国内総生産)と、実際の産出の差である。
最大の需給ギャップ
米議会予算局が推計した米国の潜在GDPを基に筆者が試算したところによると、米国の需給ギャップは2009年第4四半期には潜在GDPの8%に達し、 1950年以降では最大になる。現時点での最大は、80年代のリセッション(景気後退)期の需給ギャップが最大であった。
ちなみに日本では、96年頃から約10年間にわたり需給ギャップが解消されなかった。2000年代の戦後最長の景気拡大期に、実感なき経済成長と言われた一因だ。
現在、米国の潜在成長率は2%強。潜在成長率も増加していくから、このギャップを埋めるには今後少なくとも2%を超える成長が継続しなくてはならない。
ところが、仮に今後毎年4%の高成長が続いたとしても、需給ギャップが解消されるのは2015年までかかる計算になる。2%成長ならさらに時間がかかり、日本の失われた10年を優に上回る計算になる。
失業率は来年10%近くに上昇も
需給ギャップを反映する最もシンプルな指標である設備稼働率と失業率を見てみよう。まず米国の製造業は、現在生産を抑制しているため、稼働率は66.8%と、1950年以降では最低水準にある。製造業の設備稼働率の過去平均は、おおむね80%である。
こうした状況を考えると、米国の景気が持ち直して、生産が現在から5%上がり、設備稼働率も同じ割合で上昇し、70%強になるとしても、すぐには景況感の好転にはつながらないだろう。筆者の見るところでは設備稼働率が75%くらいにまで上昇して初めて企業景況感は中立に近づく。
同じことが労働市場についても言える。経済成長率がプラスになったと言っても、失業者が街に溢れている状態ではまだ本当の景気回復とは言えないだろう。米国の失業率は現在8.5%だが、来年初めには10%近くまで上昇し、ピークを迎えると見ている。
筆者の見るところ、米国の場合、失業率がおおむね6%の水準にある状態が、消費者のセンチメントが最も中立に近い状態にある。筆者の試算では、来年に10%近く上昇した失業率が6%の水準に低下するには、3%の経済成長が10年間続く必要がある。
これらの試算から、米国は需給ギャップを縮小するためには、とにもかくにも成長率を高めることが必要だ。だが、現在の米国の経済政策は積極的な成長拡大路線を取っているとは言えない。
1兆ドルの需給ギャップ
確かにバラク・オバマ政権は上下院で大議論の末、景気対策法を成立させ7870億ドルの財政支出で景気の回復を狙っている。だが、これでは需給ギャップを埋めるに十分な金額でない。筆者の試算では2009年以降の需給ギャップは毎年約1兆ドルに達する。
かといって需給ギャップをすべて財政出動で埋めるべきだ、とする考えは無理な話だろう。既に述べたように成長率が2%レベルにとどまる限り、政府は需給ギャップを埋めるためには、ベースライン(今後の政策変更を行わず現状の経済見通しで事態が推移した場合)で、毎年1兆ドルほどの財政赤字を垂れ流すことになる。
財政出動はあくまでベースラインの成長が回復するまでの橋渡しである。今後永劫米国の経済成長が財政政策で調節されるような計画経済に近い世界は想像しがたい。
1980年代、米国が景気後退から脱却した時は、ロナルド・レーガン政権が企業減税を中心とした政策で4~7%台という高成長をもたらし、その間に需給ギャップは急速に縮小した。一方、オバマ政権と議会は、グリーン・ニューディールと呼ぶ環境関連分野の産業育成に力を入れるとはしているものの、レーガン時代に見られた成長路線よりも富の再配分に重点を置いている。
筆者は、米国の経済が今年後半から来年にかけてプラス成長に転ずると見ており、米国経済の先行きを格段に悲観的に見ているわけではない。それでも需給ギャップに置き換えると、失望感を禁じ得ないのだ。
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